IV 中脳の発生
 
中脳胞から発生する中脳は、一貫して管の状態を保っており、発生経過は比較的単純である。
中脳胞の翼板は背外方に増大し、蓋板と共に中脳室の背側を被う板状の隆起を形成する。これを四丘板という。発生が進むと、まずその正中部に頭尾方向に走る溝が生じ、ついで四丘板の中央部に左右方向に走る凹みが現れて、四丘板は4個の高まりに分割される。頭側の1対を上丘(Colliculus superior)、尾側の1対を下丘(Colliculus inferior)といい、4個をまとめて四丘体(Corpora quadrigemina)ということもある。
上丘では胚芽層で生じた神経細胞は表面に向かって遊走していき、表面に平行な3つの層を作って平行に並び、一種の層構造を形成する。これらの細胞層の間、および内外には、上丘に出入りする神経線維の層が形成される。こうして上丘は4つの繊維層と3つの細胞層とが交互に重なった、独特の層構造を持つようになる。
下丘では、幼若な神経細胞は下丘の内部を埋め、全体として単一の大きな下丘核を形成する。
中脳胞の基板からは、動眼(III)および滑車(IV)神経核が形成される。動眼神経核は上丘の高さにおいて、滑車神経核は下丘の高さにおいて、基板の内側部、すなわち、体運動性細胞群から生じ、動眼神経副核は外側部の内臓運動性細胞群から生じる。
中脳においても、中脳室の腹側ないし腹外側には発育のよい網様体(中脳被蓋)が形成され、底板の位置には交叉繊維によって正中縫線が形成される。両側の網様体のほぼ中央部には、大きな球形の赤核(Nucleus ruber)が形成され、網様体の腹外側部には黒質(Substantia nigra)という大きな灰白質が形成される。この2つの灰白質の起源については、一般に翼板由来と考えられている。
黒質の腹外側に位置する縁帯の中には、胎生第4月の経過中に、大脳皮質からの下行繊維が出現する。これには皮質橋路と皮質延髄路(錐体路)とがあり、共に発生の進行につれて急速に強大となり、全体として大脳脚(狭義)を形成する。これは本質的には大脳皮質に属するもので、中脳に固有の構造ではない。
中脳の内腔である中脳室は、始めは比較的広く、中脳の中軸部を頭尾方向に貫通しているが、四丘体および中脳被蓋の発育につれて次第に狭くなり、また被蓋の発育が四丘体のそれよりも強大であるので、次第に背側に変位して、結局、中脳水道(Aquaeductus cerebri)となる。
 
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